アートを通して伝えたいこと

アートを通して、「私は私でいい」と思える心と自分らしく生きる勇気を育てたい

私がアートを通して伝えたいこと。

それは、絵を上手に描くことだけではありません。

色に出会う。
素材に触れる。
よく見る。
手を動かす。
つくってみる。
失敗して、また試してみる。

さまざまな表現を経験する中で、

「私はこれが好き」

「私はこんなふうに感じる」

「こんなことをしていると楽しい」

という、自分自身の小さな輪郭が少しずつ見えてきます。

私は、アートにはそんな力があると思っています。


「自分らしさって何だろう」から始まった

高校3年生の頃、私は大学には進学したいと思っていました。

けれど、「何を学びたいのか」「将来何をしたいのか」は、さっぱり分かりませんでした。

そして、入れそうな大学へ進学しました。

そんな頃に出会ったのが、『自分らしさを愛せますか?』という一冊の本でした。

「自分らしさって、何だろう?」

この問いが、その後の私の人生にずっと流れるテーマになりました。

自分とは何なのか。

自分は何が好きなのか。

何をしたいのか。

考えても、なかなか答えは見つかりませんでした。

そして私は、カナダへ留学することになります。

留学先としてカナダを選んだ理由の一つにも、多様性に対する考え方がありました。

異なる民族や文化が、それぞれの違いを保ちながら、モザイクのように一つの社会をつくっていく。

その考え方に私は惹かれました。

実際にカナダへ行き、さまざまな国籍、さまざまな年齢の人たちと一緒に学ぶ中で、私は少しずつ自由になっていったように思います。

大学では、最初から専門を一つに決めるのではなく、さまざまな分野を学び、経験したあとに専攻を決めることができました。

そのとき、私は思いました。

「そうだよね。いろいろなことを知って、経験して、やってみて、初めて自分が何をしたいのか分かるんだよね」

自分らしさは、頭の中だけで一生懸命探して見つけるものではないのかもしれません。

さまざまなものに出会い、実際にやってみる。

「好き」

「楽しい」

「もっとやってみたい」

「これは、ちょっと違うな」

そんな小さな心の動きを積み重ねながら、自分という人間の輪郭が少しずつ見えてくる。

私はそう考えるようになりました。


色彩との出会いが、私の「絵」の世界を広げた

私は、子どもの頃から特別に絵が上手だったわけでも、いつも絵ばかり描いている子どもだったわけでもありません。

けれど大学に入り、カナダで色彩学に出会い、クレーなどの抽象表現を知ったことで、私の中の「絵」の世界が大きく広がりました。

私が惹かれたのは、何かの形を上手に描くことだけではありませんでした。

色そのものが持つ力。

形や素材を自由に組み合わせる面白さ。

そして、表現することそのものの楽しさでした。

私自身、そうした表現の世界に出会う機会の少ない地方で育ちました。

だからこそ、地方で暮らす子どもたちにも、いろいろなアートに出会うチャンスをつくりたいと思うようになりました。

「お絵かき」は、鉛筆で何か具体的なものを上手に描くことだけではない。

色で遊んでもいい。

粘土をこねてもいい。

素材に触れてもいい。

形にならないものを表現してもいい。

知らなかった表現に出会うことで、子どもの世界はもっと広がる。

その扉を開きたい。

それが、私が子どもたちとアートに関わるようになった原点の一つです。


子どもの絵は、心を語っていた

アートを教え始める前、カナダで色彩学を学んでいた頃、私は「子どもの絵に現れる心」について知りました。

その後、自分の子どもを持ち、娘が絵を描き始めたときのことです。

娘の描いた絵を見て、

「この絵、知っている」

と思ったことがありました。

かつて学んだ、子どもの心と絵の関係が、目の前の我が子の絵の中に現れているように感じたのです。

そして私は、子どもたちがもっと自由に、もっと広い空間で、のびのびと絵を描いたり、さまざまな素材を使って何かをつくったりできる場所をつくりたいと思うようになりました。

実際に子どもたちとのアート活動を始めると、驚くことがたくさんありました。

子どもたちの表現は、とても雄弁だったのです。

楽しい気持ち。

ストレスを感じている様子。

体調がすぐれないこと。

下の子が生まれて、少し我慢している気持ち。

まだ言葉では十分に説明できないことまで、絵や造形の中に表れているように感じることがありました。

手は、口よりも雄弁に語る。

私は、子どもたちと関わりながら、そのことを何度も実感しました。

アートは、上手な作品をつくるためだけのものではない。

描くこと。

色を選ぶこと。

素材に触れること。

手を動かして何かをつくること。

それらは、自分の内側にあるものを外の世界へ出すための、もう一つの言葉にもなるのだと思います。


「絵が苦手」で、美術を終わらせたくない

長く子どもたちと関わり、美術を教える中で、私は一つの疑問を持つようになりました。

「よく見て描きましょう」

「形を正確に捉えましょう」

もちろん、観察する力を育てることはとても大切です。

けれど、それだけが美術なのでしょうか。

美術教育学者ヴィクター・ローウェンフェルドは、造形表現の傾向について「視覚型」と「触覚型」という考え方を示しました。

外の世界を視覚的に捉え、形や空間などを表現することに向かいやすい人がいる一方で、自分自身の身体感覚や経験、感情などとの関わりから表現する傾向を持つ人もいる、という考え方です。

私は、この視点をとても大切にしています。

子どもたちを見ていても、ものをよく見て形を捉えることが得意な子がいます。

一方で、色に強く心を動かされる子もいます。

素材に触れることが好きな子。

粘土をこねると夢中になる子。

手を動かしながら考える子。

物語をつくる子。

思いもよらないものを組み合わせる子。

本当にさまざまです。

もし美術が「よく見て、正確に描くこと」だけに偏ってしまったら、そこが得意ではない子どもは、

「私は絵が下手」

「絵心がない」

「美術は苦手」

と思ってしまうかもしれません。

私は、それで美術との関係を終わらせてほしくありません。

見る。

触る。

感じる。

色を選ぶ。

粘土をこねる。

切る。

貼る。

組み立てる。

想像する。

試してみる。

子どもによって、アートの世界への入口は違っていい。

さまざまな入口を用意することで、初めて「私はこれが好き」「これならやってみたい」と思えるものに出会う子どももいるのではないでしょうか。


アートは、自分自身と出会う場所

だから私は、子どもたちにさまざまな表現を経験してほしいと思っています。

絵を描く。

色を楽しむ。

粘土をこねる。

紙を切る。

素材を組み合わせる。

自然を見る。

美しいものに出会う。

知らなかった表現に触れる。

その中で、

「私は、この色が好き」

「これをしていると楽しい」

「もっとやってみたい」

という感覚に出会う。

反対に、

「これはあまり好きじゃない」

という経験だって、自分を知るためには大切です。

自分らしさとは、さまざまな経験をする中で、自分自身と出会いながら少しずつ見つけていくもの。

アートは、そのためのとても豊かな場所だと私は思っています。


みんな違って、みんないい

同じものを見ても、感じることは違います。

選ぶ色も違う。

描く線も違う。

つくる形も違う。

心を動かされるものも違う。

そしてアートの世界では、その「違い」が面白さになります。

誰かの作品を見て、

「そんな感じ方もあるんだ」

と思う。

自分とは違う表現を認める。

そして人の違いを認められたとき、

「じゃあ、私も人と違っていていいんだ」

と思えるのではないでしょうか。

人との違いを認めることと、自分自身を認めること。

その二つは、つながっているように思います。


私がアートを通して育てたいもの

私がアートを通して育てたいのは、「絵の上手な人」だけではありません。

もちろん、見る力や描く力、色や造形について学び、表現する技術を身につけることも大切です。

けれど、そのもっと奥にあるものを大切にしたい。

いろいろなものに出会う。

やってみる。

心が動く。

自分の好きなものを知る。

自分の感じ方を知る。

自分の心を表現する。

人との違いを知る。

そして、

「私は私でいい。」

と思えるようになる。

私は、そんな自己肯定感を育てたいと思っています。

そして人生の中で迷ったり、失敗したり、人と違うことが怖くなったりしたときにも、

「それでも、私は私として生きていこう。」

と思える人になってほしい。

一時的な自信ではなく、

生きる勇気を、心の中にどっしりと培ってほしい。

それが、私が長い間、アートを通して人に渡したかったものなのだと思います。


artde117で、これから伝えていくこと

artde117では、これから大きく三つの方向から、アートについて考え、実践し、記録していきます。

自分らしさを育てる美術教育

学校や子どもたちとの活動の中で実践してきた授業や教材を紹介するとともに、「なぜこの授業をするのか」「子どものどんな力を育てたいのか」まで考えていきます。

心をほどくアートプログラムの研究・実践

色や線、素材、描くことと心との関係を考えながら、アートが自分自身と向き合い、心をほどいていく時間になる可能性を探っていきます。

アートと心をめぐる研究・制作・発信

これまでの活動を振り返り、今の制作や研究を重ねながら、アートと心のつながりについて考えていきます。そこで生まれた気づきや問いを、言葉や作品として発信していきます。

私自身も一人のつくり手として、色、素材、モチーフと向き合い、作品をつくりながら考えたことを記録していきます。

完成した作品だけでなく、迷ったこと、失敗したこと、心が動いたことも含めて残していきたいと思っています。


artde117が目指すもの

出会う。

感じる。

表現する。

自分を知る。

自分を認める。

そして、

自分として生きる勇気へ。

artde117は、アートを通して、

「私は私でいい」

と思える心を育て、一人ひとりが自分らしく生きていくための力を育むアートのあり方を、実践し、考え、伝えていく場所です。

アートを通して、「私は私でいい」と思える心と、自分らしく生きる勇気を育てる。