発展美術では、年間を通して**「自分らしさを大切にする」**ことを授業の柱にしています。
美術には、一つだけの正解があるわけではありません。
同じものを見ても、目に留まるところは違います。好きなものも、心を動かされるものも、一人ひとり違います。
そんな自分自身の「見る」「選ぶ」「感じる」を大切にしながら、まずは鉛筆デッサンから学んでいきます。
この授業で大切にしたいこと
デッサンというと、「そっくりに描く」「上手に描く」ことが目的だと思われがちです。
もちろん、形や明暗、質感、空間を観察して表現する力は大切です。
けれど、それと同じくらい大切にしたいのが、
「私は何を見ているのだろう」
という自分自身のまなざしです。
基礎的なデッサンを学びながら、最後には自分でモチーフを選び、**「わたしをつくるもの」**をテーマにしたテーブルデッサンへと発展させます。
STEP1 鉛筆という画材を知る
最初は、鉛筆の基本的な使い方から始めます。
鉛筆は、力の入れ方や重ねる回数によって、一本でもさまざまな明るさを表現できる画材です。
まずは鉛筆を使って、
- 線の強弱
- 濃淡
- グラデーション
- ハッチング
- 鉛筆の硬さによる違い
などを試します。
「描く」前に、まず鉛筆でどんな表現ができるのかを発見する時間をつくります。
STEP2 基本形を描く
次に、球・立方体・円柱などの基本的な形を描きます。
ここでは輪郭だけを見るのではなく、
光はどこから来ているか
一番明るいところはどこか
一番暗いところはどこか
影はどちらへ伸びているか
を観察します。
複雑に見える身の回りのものも、よく観察すると基本的な形の組み合わせとして捉えることができます。
「何となく描く」から、観察して考えながら描くことへの第一歩です。
STEP3 身近なものを描く
基本形を学んだら、身近なモチーフに挑戦します。
紙コップ、瓶、缶、箱、果物、布など、形や素材の異なるものを描きながら、
- 形
- 比例
- 明暗
- 質感
- 奥行き
を観察します。
ガラスの透明感、金属の光、布の柔らかさ。
「白い」「透明」「硬い」と頭で知っていることではなく、目の前では実際にどう見えているのかを確かめながら描いていきます。
STEP4 複数のものを組み合わせる
一つのモチーフが描けるようになったら、複数のものを組み合わせます。
ここから「構図」という考え方が加わります。
どこに何を置くのか。
どの方向から見るのか。
大きなものと小さなものをどう組み合わせるのか。
少し位置を変えるだけでも、画面から受ける印象は大きく変わります。
先生が決めた構図を描くだけではなく、自分で「ここから見たい」と思える場所を探すことも大切にします。
最終課題「わたしをつくるもの」
基礎的なデッサンを学んだあと、最後のテーブルデッサンでは、自分自身でモチーフを選びます。
テーマは、
「わたしをつくるもの」
自分の好きなもの、大切にしているもの、なぜか心惹かれるものを選びます。
本、靴、文房具、楽器、ぬいぐるみ、スポーツ用品、お菓子のパッケージ、思い出の品など、モチーフは一人ひとり違ってかまいません。
モチーフを3つ選ぶ
自分を表していると思うものや、好きなものを3つ程度選びます。
「立派なもの」である必要はありません。
自分が好きだと思えることそのものを大切にします。
自分で構成する
選んだものを、どのように配置するか考えます。
重ねる。
離す。
立てる。
寝かせる。
向きを変える。
何度も動かしながら、
「これがいい」
と思える構成を探します。
この「選ぶ」という行為も、表現の一部です。
描く
構図が決まったら、じっくり観察して鉛筆で描きます。
これまで学んだ、
形・比例・明暗・質感・空間
を意識しながら、一枚の作品に仕上げます。
描き終わったら、自分の「好き」を見つめる
作品が完成したら、短い振り返りを行います。
なぜ、この3つを選んだのだろう?
この中で一番自分らしいと思うものは?
描いてみて、改めて気づいたことは?
答えに正解はありません。
深く自己分析することが目的でもありません。
自分が何を好きだと思うのか。
何に心を動かされるのか。
制作を通して、そんな自分自身に少し気づくことができれば十分です。
デッサンから始まる「自分らしさを見つける旅」
発展美術で目指しているのは、単に絵を上手に描けるようになることだけではありません。
鉛筆デッサンで身につける**「よく見る力」**を、自分自身にも向けてほしいと思っています。
まずは、ものを見る。
そして、自分の「好き」に気づく。
自分で選び、自分で構成し、自分の手で表現する。
その小さな選択の積み重ねの中に、その人らしさは自然に現れてきます。
「自分らしさ」は、無理に探して見つけるものではなく、好きなものを選び、感じたことを表現していく中で、少しずつ見えてくるもの。
このテーブルデッサンを、そんな一年間の学びの入口にしたいと考えています。
次の課題では、「ものを見る」ことから一歩進んで、**自分自身の身体――「手」**をモチーフにしたデッサンへとつなげていきます。