図書室でできる美術の授業|「本の世界を線で描く」

暑い時期、美術室を離れて図書室で授業をすることになりました。

せっかく図書室にいるのだから、ここにあるたくさんの本を美術の題材にできないだろうか。

そんなところから生まれたのが、**「本の世界を線で描く」**という授業です。

本の中から心に残った言葉をひとつ見つけ、その言葉から感じたことを「線」で表現します。

上手に描くことが目的ではありません。

言葉を読む → 感じる → 線にする。

本と美術をつなぐ、ちょっと不思議で自由な授業です。


目次

授業のねらい

この授業で大切にしたのは、文章の内容をそのまま絵にすることではありません。

たとえば、

「風が吹いていた」

という文章を選んだからといって、木や風景を描く必要はありません。

その言葉から、

  • やさしい風を感じた
  • 勢いよく流れていく感じがした
  • 少し寂しい気持ちになった
  • 何かが始まりそうに感じた

など、一人ひとり違う感覚が生まれます。

その自分が感じたものを、線の動きに置き換えてみることが、この授業の中心です。

正解はありません。

同じ文章を読んでも、違う線が生まれる。

そこに、その人らしい表現があります。


① 図書室から一冊の本を選ぶ

まずは図書室を歩いて、気になる本を探します。

小説に限定しません。

詩集、エッセイ、絵本、写真集、図鑑、科学、歴史、旅行など、どんな本でもOKです。

「ちゃんと読まなければ」と考えると本選びだけで時間がかかってしまうので、

「なんとなく気になる」

くらいでも大丈夫。

表紙が好き。

タイトルが気になる。

パラパラめくったら面白そうだった。

そんな小さな引っかかりから、本との出会いが始まります。


② 心に残った文章を見つける

本を読みながら、気になった言葉や文章を探します。

長い文章でなくても構いません。

一文でも、短い言葉でもOKです。

「なぜかわからないけれど気になる」

そんな言葉も大切にします。

作品には、

本のタイトル・作者名・選んだ文章

も記録しておきます。


③ 言葉から感じたことを「線」にする

ここから美術の時間です。

選んだ文章を読みながら、

「この言葉は、どんな線だろう?」

と考えます。

やわらかな線。

鋭い線。

震える線。

ぐるぐる回る線。

途切れる線。

どこまでも続いていく線。

線の太さ、長さ、方向、密度、重なり方などを変えるだけでも、さまざまな感情や印象を表現できます。

大切なのは、何かの形を上手に描こうとしないこと。

「私はこの文章をこう感じた」

という感覚を、線にしていきます。


④ 線から立体へ

さらにこの授業では、平面で描いた線を立体へ発展させました。

使ったのは練り消しです。

描いた線を眺めながら、

「この線が立体になったら、どんな形になるだろう?」

と考えて練り消しを変形させます。

伸ばす。

丸める。

ねじる。

つなげる。

立ち上げる。

線だったものが、少しずつ空間の中に現れてきます。

言葉 → 線 → 立体

と表現が変化していくのが、この課題のおもしろいところです。


最後は写真に残す

練り消しの作品は、そのまま長期間保存するのが難しいので、完成したら写真に撮ります。

提出するときには、

  • 本のタイトル
  • 作者名
  • 選んだ文章
  • 線で表現した作品
  • 練り消しで制作した立体作品の写真
  • 自分がどのように表現したか

などをまとめます。

作品そのものだけでなく、**「どんな言葉から、この形が生まれたのか」**まで残すことで、制作の過程が見える作品になります。


図書室だからこそできる美術

図書室での美術というと、

「美術の本を調べる」

「画家について調べる」

といった授業を思い浮かべがちです。

でも、図書室にあるすべての本を美術の入口にしてもいいのだと思います。

文学も、科学も、歴史も、詩も、絵本も。

そこにある言葉を受け取って、自分の中で感じ、それを別の表現へ変えていく。

それもまた、美術です。


「上手に描く」から少し離れてみる

高校生に美術を教えていると、

「絵が苦手だから美術は苦手」

と思っている生徒に出会います。

でも、美術は上手に形を写すことだけではありません。

線一本でも、

「私はこう感じた」

を表現することができます。

同じ言葉を読んでも、同じ線にはならない。

同じ線から始めても、同じ立体にはならない。

そこには自然に、その人らしさが現れます。

美術の授業で大切にしたいのは、上手・下手だけでは測れない、自分なりの見方や感じ方に気づくこと。

本との出会いから生まれた一本の線が、

「自分はこんなふうに感じていたんだ」

と、自分自身を知る小さな入口になってくれたらと思います。


図書室は、静かに本を読む場所。

でも見方を変えると、そこには無数の言葉と世界が並んでいます。

その中からひとつの言葉を拾い、自分の中を通して、一本の線を生み出す。

読むことと、感じることと、つくること。

そんな三つがゆるやかにつながる、美術の時間になりました。

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