アートⅠ日誌

人物を描く

エゴン・シーレ『ほおずきのある自画像』(1912年 レオポルド美術館)

右肩を下げるようにねじれた姿勢と、横目に見下ろす大きな瞳。一見、挑発的にも見えるその横顔は、時に何かを疑っているようにも、また怯えているようにも見えます。作者の名はエゴン・シーレ。ウィーンでもっとも有名な夭折の画家であり、またもっともスキャンダラスな画家です。

 破滅的な天才画家、エゴン・シーレ

エゴン・シーレ(1916)

ウィーンの表現主義者エゴン・シーレ(Egon Schiele1890〜1918)は、自分自身と性的な妄想という、2つの緊急の関心を持っていました。このような限られた関心事の中から、彼はデッサンとグラフィック・デザインにおける卓越した才能によって、ナルシスティックな憧れ、エロティックな欲望、ボヘミアンの反感、実存の不安などが今も燃え上がるような芸術作品を創り出しました。

そんなシーレのライフワークが、セルフポートレイト(自画像)でした。人生の折々、揺れ動く心境を、彼は生涯にわたってキャンバスに記録し続けています。中でも本作『ほおずきのある自画像』は、その代表作と言えるでしょう。彫りの深い顔立ちと大きな瞳はいかにもナルシスティックな印象ですが、顔中を汚すように赤・青・緑の絵の具が散らされています。

描かれた1912年前後のシーレは、波瀾万丈の時を過ごしていました。近所トラブルによる引越し、少女誘拐の疑いによる家宅捜索、さらに捜索中に猥雑な題材の作品が見つかって逮捕、裁判、そして禁固刑。自業自得ではあるものの、すっかり打ちひしがれてしまいます。汚され傷ついたような顔は、そんな当時の心境だったのかもしれません。

わい‐ざつ【猥雑】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 ) ごたごたと入り乱れていること。みだりがわしく下品なこと。また、そのさま。わいぞう。

 

 

フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を詳しく解説!モデルの女性は誰?

フェルメール 真珠の首飾りの少女

 

青いターバンと真珠の耳飾りを身に付け、こちらを向く少女。

オランダの画家・フェルメールの作品といえば、「真珠の耳飾りの少女」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

印象的なモチーフと表情が繊細に描かれた傑作として、今なお世界中の人々を魅了してやみません。

今回は「真珠の耳飾りの少女」がどのようにして描かれたのか、鑑賞ポイントや謎めいた背景と併せて、詳しく解説していきます。

 

「真珠の耳飾りの少女」とは

画家フェルメールの代表作品

真珠の耳飾りの少女

制作年1665年頃

「真珠の耳飾りの少女」は、オランダの画家であるヨハネス・フェルメール(1632-1675)によって描かれました。

フェルメールの活躍した17世紀は、優秀な画家たちが次々と輩出されたことから「オランダ黄金時代」と呼ばれています。

商人や中流階級が画家たちを積極的に援助し、美術は大いに盛り上がりました。

その黄金時代において、フェルメールは女性をモデルとした印象深い作品を残しています。

とりわけ「真珠の耳飾りの少女」は、代表作品といえるでしょう。

微笑みとも取れる口元と神秘的な佇まいが、かのダヴィンチの名作を彷彿とさせ、「北のモナ・リザ」や「オランダのモナ・リザ」とも称賛されています。

様々なタイトル

今でこそ「真珠の耳飾りの少女」というタイトルが定着していますが、実は「青いターバンの少女」または「ターバンを巻いた少女」と呼ばれていた時代があります。

その由来となったのが、真珠の耳飾りと並んで目立つ青いターバンです。

ターバンは、トルコを象徴するファッションアイテムとして知られています。

一時はヨーロッパを凌ぐ勢いを誇っていたトルコ。

そのエキゾチックな魅力を強く感じることから、ターバンにちなんだタイトルとなったのでしょう。

しかし、次第に耳飾りの存在が注視されるようになり、「真珠の耳飾りの少女」という呼び方が一般的になります。

タイトルの変遷にも、この絵の面白さが詰まっていますね。

「真珠の耳飾りの少女」のモデルは誰?

真珠の耳飾りの少女のモデル

映画「真珠の耳飾りの少女」より

「真珠の耳飾りの少女」に特定のモデルはおらず、17世紀のオランダでよく描かれたトローニー画と考えられてきました。

一方で、フェルメールの娘・マーリアではないかという説もありますが、定かではありません。

近年では、このモデル問題について興味深い研究が進められています。

マウリッツハイス美術館が2018年から行っている科学調査により、目元のまつ毛や背景のカーテンの存在が明らかになりました。

現実的な描写があることから、フェルメールがモデルを前にして描いた可能性もゼロではないといえるでしょう。

モデルが誰なのか発見される日も、そう遠くないかもしれません。

「真珠の耳飾りの少女」の鑑賞ポイント

美しい唇

真珠の耳飾りの少女の唇

 

艶を感じさせる赤い唇は、少女のチャームポイントとして非常に目を引きます。

下唇には明るい色を乗せ、上唇をぼかした輪郭で描くことにより、若く瑞々しい質感を見事に表現しました。

微かに開いた口元は、小さく笑んでいるようにもみえます。

一方で、何かを言おうとして思いとどまっているような印象も受けるのではないでしょうか。

はたまた、声にならない思いがため息となって漏れ出ているのかもしれません。

少女は一体何を思ってこちらを見つめ、口を開けているのか。

唇の描写だけで、これほどまでに想像をかき立てるフェルメールの技には脱帽です。

真珠の耳飾り

真珠の耳飾りの少女アップ

ソース

絵のタイトルともなった真珠の耳飾り

斜め上からの光源と、少女の白い襟から反射した光を利用して、粒の大きさと質感をリアルに描いています。

暗い背景に溶け込みそうになりながらも、光に照らされて浮かび上がっている真珠の演出が見事です。

実はマウリッツハイス美術館の科学調査により、耳飾りのフックが描かれていないことが判明しました。

アクセサリーとしてよりも、少女の心情を映し出す鏡のようなものとして、耳元に添えられたのかもしれません。

どこか現実離れした表現になっているからこそ、少女の複雑な表情にさらなる引力を与えています。

青いターバン

真珠の耳飾りの少女のターバン

ソース

少女の服装の中で一際色鮮やかなターバンには、惜しみなくウルトラマリンの顔料が重ねられています。

ラピスラズリという鉱石から作られた絵具は、非常に高価なものでした。

フェルメールがこの群青色を愛用したことにより、フェルメール・ブルーとも呼ばれます。

「真珠の耳飾りの少女」で使用されている色は少なく、基本的に青と黄色で構成されたところが特徴です。

補色関係である2つを組み合わせて、背景の暗さに負けない色の輝きが生まれています。

意味ありげな表情をしながら、強い意志を秘めているようにも感じられる少女の姿。

青いターバンが、その芯の強さを表しているのかもしれません。

「真珠の耳飾りの少女」が観れる美術館

マウリッツハイス美術館【オランダ】

マウリッツハイス美術館

 

「真珠の耳飾りの少女」は現在、オランダ・ハーグにあるマウリッツハイス美術館で目にすることができます。

フェルメールの死後、彼の作品の多くは競売にかけられるなどして散逸しました。

19世紀、「真珠の耳飾りの少女」は海外流出を防ごうとした美術史家たちの手によって落札。

紆余曲折を経てマウリッツハイス美術館に寄贈されて以降、今日に至るまで生まれ故郷で深く愛されています。

マウリッツハイス美術館詳細

開館時間:10:00~18:00(月曜日は13:00から開館 木曜日は20:00まで)

休館日:月曜日 午前

入館料: 大人 €17.50 子供 無料